2003.1.15
我が道を行くフランスでも歯列矯正などの口許の美容が大流行のようです。アメリカの影響ですが、これもグローバリゼーションですね。日本では、少しぐらい八重歯の方が「かわいい」となるらしいのですが、十年後はどうなっているのだろう。親たちは子供の歯並びをもうちょっと考えた方が良いかも知れない。
La dictature du sourire éclatant (2003.1.15)
白く輝く笑顔が社会を支配
歯を白くすること、それを見せびらかす為に何でもすることが、本当の社会的強制となってきている。
「歯を清潔にしましょう」と歯磨き粉の香りをかすかに振りまきながら鼈甲眼鏡をかけた白衣の歯科医がみなに演説する、そんな時代はもう終わった。この快楽の時代には、正統的な歯医者さんは、昔は商業的と見なされていた美容目的の矯正歯科医のかげにすっかりかすんでしまった。多くの病院や歯科クリニックでは「笑顔(歯並び)の治療診断」が実施されているし、「笑顔(歯並び)」についての学際的なシンポジウムまで開かれるくらいである。この意味するところは重大である。昔は虫歯の治療や予防のためにしか歯科医を訪れることはなかった。しかし今や歯科医に行くのは、義務的とまでになった美容歯列矯正のためとなりつつある。歯を健康状態に保つというよりも、歯を完璧に美しくすると言うことが関心事になってきているからである。
歯並びをピアノの鍵盤のように完璧に矯正することや、歯のエナメル質を完璧に真っ白にするいうのは、もはやショービジネスに携わる人たちだけの義務ではなくなっている。きれいな歯という切り札があれば、人生に成功することが出来るのだ。「この二三年、美容目的の歯科矯正が急増している。人々は歯のほんのわずかは欠陥でさえ競って直したがる」とパリの歯科医はいう。セラミックの歯に植え替えたりすることから、歯の裏側にこっそりと宝石を埋め込んだりすることさえするのだ。この関係の治療はほとんどのケース患者の全額負担となる。圧倒的に一番多いのは、歯を白くする治療であり、800ユーロほどかかるが、特殊なゲルを特別光線を当てて活性化するものである。
今後は、この治療を自宅でも出来るようになる。アメリカの企業グループに属するランブラント社は、「特別な白くする歯磨き」で有名であるが、このたび医療局からこの歯を白くする漂白剤の販売許可を取得した。これは過酸素剤をベースとした薬剤で、特別の器具を使用して、一日一時間、2週間に渡り歯に施すことになる。18ヶ月毎に定期的にやる必要がある。タバコを吸ったりコーヒーを飲んだり、コケモモのジャムが好きな人はもうちょっとこの間隔を縮める。
7月以来、この薬剤「ランブラントプラス」(ひとつ60ユーロ)はフランスで5万個売れた。同社はこれは時代の流れに沿ったことだとして「白い歯は社会生活を有利にする。もし貴方の笑顔が美しいと、人からちょっとしたサービスを受けやすくなる」という。「十年以内に、米国のように、歯の漂白は日常的な身だしなみとなる」と。
この完璧な歯並びやアメリカ型の「笑顔」を熱狂的に信ずる人たちは、職業上、また私的生活に於いても、外観は決定的な重要性を持つと主張する。完璧な歯並びでないと、忙しい都市の単身者達の間で今流行している「スピード・デイト」でパートナーを獲得するチャンスは難しくなるのである。
歯のエナメル質が黄色いことは、テレビ番組出演の候補者の中からまずその候補者を外す理由となる。画像で笑顔を振りまこうとすればするほど、逆説的なことも起こる。マドンナのような金歯や、ミック・ジャガーのダイヤモンド歯はちょっと「アウト(流行遅れ)」になりつつあり、最近のジェット機族の一部では、トム・クルーズやフェイ・ダナウェイのような人気俳優のように、金属製の輪冠を見えるように歯に付けるのが流行りだしている。それを見て人は子供時代の歯列矯正器にノスタルジーを感じるのだ。
長い間、歯ブラシの消費が立ち後れていた国(フランス)にとっては、確かにこの新しい趣味の勃興を否定的に判断することは出来ないだろう。しかし一部の専門家はちょっと行き過ぎではないかと心配している。「正常な状態に戻して、患者を気持ちよくさせるという限りにおいて、美容歯列矯正は正当なものだ。問題は、プロは常に過剰な消費者の需要には抵抗しがたいと言うことで、それはもう笑顔(歯並び)の独裁制と言って良いほどにまで進んでいる」とパリの歯科医は言う。笑顔(歯並び)というものは、学問的な正常性の規範で定義されるべきものだとして「犬歯が下唇に輕く接すること」が規範であると最近のシンポジウムでさる専門家は、対立する意見を否定して、歯並びの基準を厳密に定義した。
このような傾向は、パリの病院の胃腸科医エヴァ・アメイセン博士をイライラさせる。「美学的に、また統計的に、外見が完璧な人間というのは存在しない。完璧を追求することは最終的に紋切り型を寄せ集めることになる」と彼女は言う。「ちょっと欠陥があった方が、時としてそのひとの個性がより表れることになる。しかし自分の子供を完璧な歯並びを持った子に育てようと必死で、それをやらないのは無責任と信じている親たちに、これを説明してもなかなか分かってくれない」という。
今、服装コードについては緩和の方向にあるのに、人体についてはその逆で、完璧さを求める傾向にある。これが美容整形が花盛りであることに繋がっている。今米国で流行りだした最先端の例であるが、若い女性の間で、完璧な、小さい縦長の「おへそ」を求めて、おへその整形手術が流行っている。こういう事実からして、クローン人間製造が遺伝子造作に繋がることは間違いないところである。
Jean-Michel Normand
・ ARTICLE PARU DANS L'EDITION DU 15.01.03
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